大阪家庭裁判所 昭和42年(少)8007号 決定 1967年10月23日
少年 G・H(昭二四・五・三生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してあるコルト四五口径けん銃一了、けん銃実砲五発(昭和四二年押第一二五三号の一二)は、被害者○村○男に還付する。
理由
(非行事実)
少年は、
第一 昭和四一年九月○日午後七時頃、大阪市天王寺区○○○町○○番地北○和方において、同人所有にかかる現金五万七、〇〇〇円を窃盗し
第二 同月△日午前一一時五〇分頃、高松市○○町○勇方二階四畳半の間において、○橋○男所有にかかる現金二、一〇〇円を窃取し(以上第八〇〇七号事件)
第三 昭和四二年九月○日午前八時過頃、大阪市西淀川区○○町○○○番地大阪府西淀川警察署○○町派出所に赴き、休憩室に戸締がなく且つ同派出所勤務員大阪府巡査○山○男が仮眠中であるのに乗じ、同所においてあつた同人保管にかかるコルト四五口径けん銃及びけん銃実砲五発(昭和四二年押第一二五三号の一二)を窃取し
第四 法定の除外事由がないのに、前記九月○日午前八時過頃から同月△日午後一一時までの間、前記派出所から大阪市西淀川区○○町○○○の○番地○○建設飯場内等諸々を転々としたうえ、大阪府泉南郡○○町大字○○××××番地○川方北方二〇〇メートルの通称○○丘山中の路上に至るまで、前記けん銃一丁を所持し
第五 法定の除外事由がないのに、前記日時、場所において、前記けん銃使用の実砲五発を所持し
第六 タクシー運転者から売上金を強取しようと企て、昭和四二年九月△日午後八時三〇分頃、伊丹市○○字○○×番地○○電工前付近路上において、○村○一(昭和四年一〇月一一日生)の運転する阪急タクシー(大阪○か○○○○)に乗客を装つて乗車し、行先を次々と変え、約二時間三〇分を走行して同日午後一一時頃、大阪府泉南郡○○町大字○○××××番地○川方北方二〇〇メートルの通称○○丘山中の路上にさしかかるや、にわかに後部座席から所携の前記けん銃を前記○村の左肩に突きつけ、「わかつているやろ」と申向けて脅迫し、その反抗を抑圧して金員を強取しようとしたが、同人にけん銃を奪われたためその目的を遂げず、その際同人に対し全治一週間を要する右拇指及び中指擦過傷の傷害を負わせ(以上第七三三七号)
たものである。
(適用法条)
第一第二第三の事実はいずれも刑法第二三五条に、第四の事実は銃砲刀剣類所持等取締法第三条第一項、第三一条の二に、第五の事実は火薬類取締法第二一条、第五九条に、第六の事実は刑法第二四〇条前段に各該当する。
(処分の理由)
少年は、生後一週間で実母と生別(父母離婚)し、父方祖父、叔母に育てられたが、知能低く、身体も矮少であり、難聴で蓄膿症を患い小学校に入つても成績は全くふるわず、苛められることも多く、五、六年は長期欠席があり且つ家出、浮浪等をくりかえし、昭和三七年四月中学校に入つたが一日も登校しないで徒遊していた。昭和三八年五月頃から工員として働きに出たが永続きせずに転々し、又とかく給料をもらうと家出しては各地を放浪し、非行を重ねた(本件第一事実の非行後新幹線で東京へ、すぐ飛行機で伊丹へ、そして船で高松に赴き、第二事実の非行をしたのはその一例である)。第一第二事実の非行により、昭和四一年一〇月一四日大阪家庭裁判所堺支部で家裁調査官の試験観察となり、以前働いていた大阪市天王寺区の○○食堂に戻つてコック見習をしていたが、昭和四二年一月末日これといつた理由もなく退職し、釜ヶ崎の手配師の紹介で土方をしたり、工員をしたりしていた。
少年の知能は精神薄弱(魯鈍、IQ六二)で、表情もやや茫洋とし、態度も落着きなく、訓練、躾が全くなされておらず、情緒的にも未熟である。又体格も不良である(審判時でも身長一四九・五センチ、体重四二・五キロで、大体一三歳位)。心身共に発育不全、思考、行動共に幼稚である。
少年を幼時育てた祖父は、バクチ打ちで、少年を盲愛し、父は若いときから遊び人暮しをしており、テキ屋、叩き売り等をして各地を転々し、少年を育て、少年と一緒に生活することはなかつた。少年が四歳頃迎えた継母は、子供のしつけに厳しいが、ややヒステリック気味で、少年は敬遠している。両者共少年を積極的に保護監督しようという意欲や能力に乏しい。
本件第三事実の非行をした当時、少年は大阪市西淀川区○○町の飯場にいたが、親方に給料の不服をいつたことから叩かれたので、巡査に仲裁に入つてもらおうと考え、○○町派出所に赴いたが休憩室で寝ており、呼んでも起きないので帰ろうとしたところ、そばにあつたけん銃が目につき、これは得難い物があると思い、咄嗟に欲しくなつて、何に使うとの考えもなく、盗つて逃げたものである。
少年の非行、ことに第三の事実は偶発的で確たるけん銃使用の目的はなかつたとはいえ、社会の耳目を大いに衝動させたものでその罪責は重く、又第六の事実もけん銃を脅迫の用に供したのみとはいうものの、意識的に犯行に使用しており、罪質は軽くなく、これらの点をみれば、少年に対して刑事責任を追求するのも一つの考え方であろうがしかし、上記のような少年の素質、環境等をも綜合して考察すれば、今回は中等少年院に収容して、その知的な能力に相応した教育、生活訓練を行い、できる限り性格、行状の改善、矯正を図るべきであると考えられるので、少年法第二四条第一項第三号により少年を中等少年院に送致することとし、押収してあるけん銃一丁及び、けん銃実砲五発(昭和四二年押第一二五三号の一二)は判示第三の行為の賍物で被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法第三四七条第一項により、これを被害者○山○男に還付することとする。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 上田次郎)